Baseball Umpire AWAMURA Column


第1回「野球審判員という仕事」

●野球審判員:粟村 哲志

 みなさん、はじめまして。野球審判員の粟村哲志と申します。ご縁があって、今回からこちらにコラムを書かせていただくことになりました。よろしくお願いいたします。

 どんなスポーツでも、本格的に試合をするためには中立の立場である審判員が必要です。しかし、そこで行われるプレイの多くは、特別に審判員を必要とするものではありません。 野球であれば、9イニングの試合で片方のチームが27回アウトになります。元大リーグ審判員で、長年にわたりプロ公認審判学校を主宰していたジム・エバンス氏が統計を取ったところでは、このうち約95パーセントは審判を必要としないプレイだったそうです。それは例えば、通常の飛球を野手がキャッチしたとか、内野ゴロが一塁に送られて何メートルも手前で打者走者がアウトになったとか、そういうプレイです。

 しかし、残りの5パーセントがいわゆる「クロスプレイ」になり、選手も観客も「どっちだ!?」と固唾を飲む中で判定を下し、試合を進行するのが審判員の仕事であり、醍醐味でもあるわけです。

 審判員はルールに明るくなければなりません。野球では「打球に対する守備優先の原則」というものがあります。打者が打った打球を最初に守備している内野手を、打者や走者が妨害してしまうと、たとえ故意でなくても守備妨害としてアウトになってしまいます。ですから、たとえばセカンドゴロを捕球しようと構えた二塁手が、ちょうど一塁と二塁を結ぶ塁線上に位置していたとしても、そこを走りたい一塁走者の方が二塁手をよけてあげなければなりません。

 しかし、ルールを知っているだけではダメです。実際に上記のような状況になって、走者が野手に接触してしまうこともあります。あるいは接触はしなかったけれども、野手の前を通り過ぎる際に著しく守備の妨げになることもあります。はたまた、ダブルプレイを避けようとして、走者が野手を故意に突き飛ばすかもしれません。そのようなことが目の前で起きたときに、驚くことなく、慌てることなく、冷静に的確なジャッジを下すことができなければなりません。

 

 そのようにして、ひとつひとつのプレイに対して必応な裁定を適切な形で下し、試合の進行を円滑に進めていくのが審判員の役割です。正しいジャッジをしても誰かに恨まれるかもしれませんし、人間である以上間違ってしまうこともあります。あまりプラスの評価を得ることの少ない、減点法で評価される損な商売ですが、スポーツになくてはならない役割としてのやりがいを感じて日々グラウンドに立っています。